大きくて個人的な、割れんばかりの拍手だった。

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昨晩、世田谷文学館で、筒井康隆の朗読会が行われた。御年80才。現在展示中の『日本SF展』の監修も務めている氏のことである。何かしら、SF総決算的な作品が選ばれると予想していた。 予想は見事に裏切られた。新潮2014年1月号に掲載の新作『ペニスに命中』を選んだのである。「SF展だというのに、SFは選ばなかった」「読むとちょうど1時間くらいだから」と、根拠について明かした。果たしてそれだけだろうか。朗読に耳を傾けながら、考えていた。

ペニスに命中は、高度な思考を持ったまま老齢を迎えた男の話だ。食卓の上の置き時計が珈琲カップを壊してくれと話しかけてきたり、二百万円と拳銃を持ち逃げしたり、2ページ後の未来を予言したり、死後硬直のまま歩いてくる婆さんと衝突したり、笠智衆の声色を使ったりするお話。主人公と同じく銀齢を迎えた作家、最先端の筒井の感覚を文体化したものだった。 感覚に嘘をつかず、立場に溺れず、現在形で一番おもしろいと思う新作をSF展の会場で朗読する。なんてかっこいいんだ。

朗読が終わると、観客から惜しみない拍手が送られた。それは、本を閉じる度に読者がそれぞれ感じてきた「あー、おもしろかった」を一堂に会したかのような、大きくて個人的な、割れんばかりの拍手だった。